〜乳兄弟〜

      (ヒュウガとマリーチ・ニリハリ
         マリ→レン前提・三人称)




今日こそはマリーチを説得する。

ヒュウガは、そう胸に決めていた。
マリーチは元々、良く言えば自由奔放、悪く言えば自分勝手なところがある。
そんなことは昔から分かっていたし、そうそう変えられるものでは無いのかもしれない。
だが、ここ最近、朝の修行に顔を見せないことがあまりにも多い。
夜もどこに行ってるのか、いつも不在だ。
今日こそ、毎晩どこで何をやっているのか問い詰め、
真っ当な道に戻るよう説得してやるのだ。

「…それでは、これにて解散!」

ヒュウガ直属の部下がそう号令をかけ、
マリーチ率いる部隊とヒュウガの部隊との合同演習が終わりを迎えた。
それと同時に、ヒュウガは「待て」と自分の隊に手で合図し、
マリーチのところへと歩を進める。
本当は演習が終わったら、まず評価するところや注意点を述べたい。
時間が経てば経つ程、隊員の記憶は薄れ、演習の効果が低下してしまう。
しかし、さすがのマリーチも合同演習には顔を出したが、
このチャンスを逃したら次はいつ捕まえられるか判らないのだ。
ヒュウガがマリーチの元に着くとほぼ同時に、
マリーチ隊の簡潔な反省会が終了した。
この隊はいつも、反省会などが異様に短い。
それなのに、次までにはきっちり前回の弱点を克服してくるのが
ヒュウガには不思議だった。

「マリーチ」

歩を進め、真っ正面からマリーチの目を見る。

「話がある。この後、ちょっといいか」

「悪い、今晩は約束があるんだ。また今度な」

マリーチは頭をかきつつ答えたものの、
ヒュウガの真剣なまなざしを正面から受け止めた。

「…大事な用なのか」

ヒュウガの問いに軽くうなずき、マリーチはヒュウガとすれ違う。
引き止めようかと一瞬迷うが、目をそらさず答えたということは、
約束があるのも大事な用だというのも本当なのだろう。
ヒュウガは無意識に伸ばしていた手を下ろし、小さな溜め息をついた。

「ヒュウガ殿」

まるでこの瞬間を待っていたかのように、後ろから声がかかる。

「なんだ」

振り返ると、ほとんど話したことの無いマリーチ隊の副隊長が、
思い詰めた様子でヒュウガを見詰めていた。
ふと見渡すと、マリーチ隊が全員、隊列も崩さぬまま固い表情で
こちらを向いている。

「…一体、どうしたんだ」

「ウチの隊長のことです。
 最近、ちょっと心配で」

普段なら、噂話の類いは聞かんときびすを返すヒュウガも、
皆のただならぬ様子に話の続きをうながす。

「ニリハリの奴が、隊長を良からぬたくらみに引き込もうと
 してるようなんです。
 最近、やけにニリハリが隊長にまとわりついてて、
 隊長もいつもなら放っておくのに変に相手してて…」

「同じ十二天聖同士、連絡を密にしておく必要もあるのだろう。
 大体、目上の者を呼び捨てにするのは感心しないな」

ヒュウガは腕組みをし、不快感を表す。
そこに、後ろから声がかかった。

「ヒュウガ隊長、自分達からも進言します」

振り向くと、いつの間にかヒュウガ隊が後ろに勢揃いしていた。
副隊長が一歩進み出て、言葉を続ける。

「こちらの隊員にも、お二人が一緒にいるところを見た者が大勢います。
 自分も一度目撃しましたが、ニリハリさんのしつこい申し出を
 マリーチ殿が拒否しているように見えました。
 けれど、ニリハリさんに引く様子は全く見られませんでした」

「そうなんです、オレらもそこが心配なんです」

思わぬ援軍の登場に、マリーチ隊副隊長が勢いづく。

「天空殿最寄りの一般天空人向けの酒場でよく目撃されてるんですが、
 ニリハリの野郎、なんかウチの隊長に無理強いしてるっぽいんです。
 隊長、普段ならニリハリなんて取り合わないんで、
 弱みでも握られてるんじゃないかと心配で心配で…。
 ヒュウガ殿、お願いです、マリーチ隊長を助けてやって下さい!!」

「ニリハリさんについては自分も悪い噂ばかり聞きますし、
 何が起きてるか突き止めた方がイイと思いますよ」

一斉に頭を下げるマリーチ隊を、ヒュウガの副隊長も擁護する。

「わかった、わかった!
 こんなに皆を不安にさせているのでは、オレとしても放っておけん。
 今晩、その酒場に行ってみよう」

マリーチ隊に歓喜の叫びが起こり、ヒュウガ隊も安堵の表情を浮かべる。

「だが、まずは先程の演習の反省だ!
大体、指示を破るとは何ごとだ!
罰として、演習場を20周!!
その後、ここに集合のこと!!
マリーチ隊は解散!!」





「ここがその酒場だな…」
その晩、ヒュウガは話に出ていた一般天空人向けの酒場を眺めてつぶやいた。
酒を呑めないわけではないが、天空殿内部の行事か特別の事情でもない限り
飲もうとも思わないヒュウガにとって、
外にまでざわめきが聞こえるその酒場は、ひどく猥雑な場所に思われた。
(実際は至極健全な普通の居酒屋なのだが)
自分の格好が浮いていないか、店内に入る前に見下ろしてみる。
一応、肩当てや脛当てなどの防具を外し、フードつきのマントを着て来た。
大丈夫、天空殿を参拝に来た一般天空人に見える…ハズだ。
ヒュウガは一つ深呼吸してから、思い切って扉を押し開けた。

「っらっしゃ〜い!!お一人様で?」

「…あ、ああ」

店主だろうか、大男の大声に一瞬たじろぎつつ、
マリーチとニリハリの姿を目の端で探す。
カウンターに並んで腰掛けている2人は、すぐ見つかった。
しかも、運良く2人の斜め後ろの小さなテーブル席が空いている。
その席を指差し、何事もなく通される。

腰を下ろし、2人の様子をうかがう。
大丈夫、気付いた様子は無いな、だがマントは脱がない方が良いだろう。
…頭を寄せあって小声で話すあの様子は、なるほど何か秘密がありそうだ。
しかし、ニリハリはまだしもマリーチが謀略に手を貸すなど、考えられない。
規則を守る方では無いが、汚い手など使う奴ではない。
それに今はフラフラしているが、アツクなれるものさえ見つかったら、
自分の正義を貫くことは間違いないのに…。
ヒュウガが物思いに耽っていると、頭上からいきなり声をかけられた。

「ご注文は?」

見上げると、先程の大男が伝票を手に返事を待っている。

「ああ…アムリタを」

「アムリター!?お客さん、バカ言っちゃいけねぇや、ここは酒場ですぜ?
 アムリタならすぐそこの泉で汲んで下せぇや!」

大声で怒鳴られ、ヒュウガは思わず身をすくめた。
神将御用達の店では健康を気遣いアムリタを頼むのは普通の行為だが、
どうやらここでは違うらしい。
周囲を見渡すと、こちらを見ている者もいる。
これ以上、人目を引かない方がいい。何か酒類を頼まなくては…!

「あ、アムリタ割で、カリット酒を」

「へい、カリット酒のアムリタ割でー!」

どうやら、この注文なら大丈夫のようだ。
復唱して去っていく大男の背中を見送りつつ、
目の端でニリハリとマリーチを確認する。

二人ともヒソヒソ話に夢中で、こちらを気に留めている様子は全く無い。
彼らの会話に集中して耳を傾けていたヒュウガは、
ほぼ無意識のまま運ばれてきた酒に口をつける。
爽やかなミント系の味とアムリタのほのかな甘さに、
この葉が好きだと笑っていた仲間の顔が一瞬浮かんだような気がした。







「だから!てめぇの言うことには賛成できねぇって言ってんだろ!?」

マリーチの苛立った声が、ようやくヒュウガの耳にもハッキリと届いた。
途切れ途切れのセリフを必死に聞き取ろうとしているうちに、
すでにヒュウガの酒は3杯目だ。
遂に到来した、マリーチの真意を知るチャンス。
ヒュウガは思わず身を固くして、次の言葉を待った。


「微乳のがずっとイイに決まってんだろが!!!
 きれいな胸をびにゅうっていうだろ!!!」

…は?びにゅ…う?
いや、まさか聞き間違いだよな、もう少し様子を見よう。
そう自分に言い聞かせるヒュウガだったが、
動揺が手に伝わりグラスの氷が音を立てる。


  「びにゅうってのは美しいちちのことだろ。
 手に余るほどの大きさと重さ!これがなきゃ胸とも呼べないんだよ」

ククッとニリハリが嘲りの笑いを漏らす。

「貧乳なんざ、女として成熟してない証拠。
 やっぱ女はどーんとデカイ胸に細いウエスト!これよ」

「ケッ、デカイ胸なんてなぁ、胸の下に垢が溜まってそうで気色悪いんだよ!
 年とりゃ垂れるしな!
 その点、微乳は違う!!
 漂う清潔感に、押し付けがましくないほのかな女らしさ!!
 それでいて、男の固い胸とは違う柔らかさ!!
 てめぇは微乳の素晴らしさってモンが全っ然分かってねぇ!!!
 大体なぁ、貧乳なんて呼ぶんじゃねぇ!!!
 び・にゅ・う!!うつくしいチチであることを讃えて微乳と呼べっ
 つってんだろがあああああ!!!!」

「マ、マママママリーチッ!!!
 公衆の面前で一体何を言っとるんだ!!!」

どんどん大きくなる義兄弟のあられもない言葉に、
顔を真っ赤にしたヒュウガが思わず止めに入る。

「ああ?ヒュウガ、お前こんなとこで何して…いいから、どけ!
 そこの馬鹿に今日こそ微乳の素晴らしさをだな…」

「マリーチ、声を落とせ!周りの人に迷惑だろうが!」

「うるさい!!男たるもの、自分の好きなオッパイを愚弄されて
 黙ってられるわけねぇだろ!!
 オレの愛する微乳に…あんな可憐で清楚なオッパイに対して、
 暴言吐くのは絶対に許さねぇ!!!
 2週間かかっちまったが、今日こそ改心させるぞ、
 ニリハリィィィ!!!」

「くくっ…貧乳に敬意を払えだと?笑わせるな、マリーチ!
 女性の象徴たる乳は、大きければ大きいほど
 その役目を果たしているというもの!
 お前が幾らわめこうと、その事実は変わらん!!」

2人の言い争いがどんどんエスカレートしていく中、
マリーチに振り払われたヒュウガは呆然と2人を見詰めていた。
女性の胸がどうしたとか大小がどうだとか、
とても皆の手本となるべき神将の言葉とは思えない。
しかも、それを2週間も続けていたなんて。
この論争のために、自分との修行がないがしろにされていなんて。
何かアツクなれるものが見つかりさえすれば、
それに向けて努力する奴だと思っていたが、
その対象が女性の胸だなんて…!
思わず、がっくりとその場に崩れ落ちる。

「これじゃあ、義兄弟じゃなくて乳兄弟だよ…っ」

そんなヒュウガの呟きは、2人のオッパイ論争と周囲の酔っ払いの声援に、
虚しくもかき消されるのであった。







(2008年8月3日の日記から)




もう、マリーチはレンゲちゃんが好きな余り、微乳信者になってればいいよ!!

  _   ∩                      
( ゚∀゚)彡 オッパイ! オッパイ! レンゲたんのオッパイ!
   ⊂彡                        

  言いたいことはそれだけだ。ハッハッハ!!