〜保健室〜

      (凱(小学生)・独白調)
       *前回の凱Verです




倒れるなんて、悔しくてたまらない。
熱が出る予兆はずっと感じていたけど、押さえ込めると思っていたのに。
秋亜人の家を出るまではうまくごまかせたけど、
一時間目が体育だったのが不運だったな。
とはいえ…単なるお泊まりで体調を崩すなんて、
お人好しの秋亜人もいい加減愛想が尽きたかもしれない。
そう考えると、急に胸が苦しい。
こんな身体…最低だ。
変な髪の色、目の色。
すぐに調子を崩すポンコツで、周りに迷惑ばかりかける。
…こんな最低な足手まといじゃ…秋亜人に見捨てられても当然だ…。


姉さんが期末試験の勉強に集中できるようにと、夕食に招かれた時から、
秋亜人の家に泊まって行くよう誘われないかと期待していた。
不調を全く感じ取っていなかったわけではないから、
秋亜人が泊まってけと主張してくれた時、
多少微妙な表情になってしまったかも知れないけれど。
…もちろん、姉さんの邪魔にならぬよう、一人で本を読む時間も嫌いでは無い。
けれども…誰かと一緒に居て、『受け入れて貰えている』と感じる喜びには到底及ばない。
…いや、『誰か』では無いな、『秋亜人』と一緒に居て、だ。


秋亜人は、本当におかしな奴だ。
最初に会った時から、秋亜人は他の奴らとは違ってた。
大抵の子供は、まず最初に髪や肌の白さに注目し、質問をぶつけてくる。
なのに秋亜人は、そんな事に気付いていないかのように、
「何をしてるのか」「友達になろう」ときたものだ。


その秋亜人の無頓着さは、今も変わらない。


異端な容姿に加え、『可哀相な』生い立ちとなってしまった僕に対して、
ほぼすべての人が好奇か同情の目を向ける。
それが童心や善意から来ることはわかっている。
けれど、僕が『異端』であることを、否応無く突き付けられるのも、また真実だ。

秋亜人は…気付いているのだろうか。
僕が秋亜人と居る時だけ、年相応の普通の子供になれる、ってことを。

学校では、優等生で居なければならない。姉さんにこれ以上、迷惑はかけられない。
でも姉さんが、僕に対してわだかまりを持っていることもわかっている。
当然だろう、あれだけ母さんの関心を独り占めすれば。
けれど、その母さんの愛情は…わかっている、あれが精一杯だったこと位。
でも、毎日毎日謝られて、目の前で泣かれて…。
正直、いたたまれなかった。
父さんは僕から目をそらす。
僕の姿が悲しいことばかり思い出させるから。
僕が普通の姿だったら、母さんはもっと幸せだったと思うから…。


でも、秋亜人は。
僕の姿を気にしない、僕に複雑な想いもない、真っ正面から僕を見詰めてくる。
そして、普通の友人として扱ってくれる。
ウルトラマンだのUFOだのたわいも無いこと話して、素直に笑って、怒って、泣いて。
だから僕も変に裏を読むこと無く、普通に笑える、普通に喋れる。
秋亜人の前でだけは。


でも…もういい加減、秋亜人も愛想が尽きたかもしれない。
秋亜人は明るくて元気良くて、いつだってクラスの人気者だ。
こんなすぐ寝込む僕なんかより、
足手まといになってばかりの僕なんかより、
よっぽど良い遊び相手がたくさんいる。
…さっき2時間目終了のチャイムが鳴った。20分間の休み時間だ。
今日は天気も良いし、秋亜人は今頃、他の奴らと校庭に出てることだろう。



バタバタ、と誰かが廊下を走って来る音が聞こえる。
慌てて涙をぬぐい、鼻をかむ。
この年になって泣いてたなんて、格好悪すぎる。
大きな音を立てて保健室の引き戸が開き、またバシャンと閉まる。
うるさいな、寝てたら起きちゃうだろ。
…今更忍び足したって遅いんだよ、早く僕を一人にしてくれ。
カーテン開けるな、どこの無神経な馬鹿だ。

…秋亜人…?
なんでここに…?
校庭に出なかったのか、こんないい天気なのに?

「よぉ、どうだ具合?」

「…うん、だいぶ楽になったよ」
とりあえず笑ってみせたけど…、何の用だろう。
こんなに間があくの、秋亜人にしては珍しい。
…ああそうか、僕を見捨てるって言いに来たのか…。
秋亜人、変なところでまじめだから、僕を無視するとか出来ないから…。
すうっと指先が冷たくなる。

「ごめん、凱!!」

…ほら、やっぱり。
わかってただろう、いつかこんな日が来るって。
泣いちゃダメだ、動揺しちゃダメだ、これ以上秋亜人に嫌われたくない。
手が…震えてる。

「お前が熱出したの、オレのせいだ!」

…え?

「凱が身体弱いの知ってたのに、
 ムリヤリ引き止めた!
 風呂でも潜りっことかさせたし、
 夜も自分勝手にUFOとかウルトラマンとか
 そんな話にずっと付き合わせた!
 お前がツラいのオレのせいだ…。
 ごめん、ごめん凱ぃ…」

…縁を切りに来たんじゃ、無いのか…?
無理させた、って、泊まりに来た友人同士が普通にやることしかしてないのに。
ポンコツで忌々しい僕の身体が悪いのに。
見捨てられても当然なのに。
僕の方こそ、秋亜人と一緒ですごくすごく楽しかったのに…!
早く何か言わなきゃ、身体の痛みなんて大したことない、
それより秋亜人と一緒に居たいんだって、言わなきゃ…!
早く、早く…!!

「熱、頑張って下げるから、今晩も秋亜人の家に泊めてくれる?」
って何言ってんだ僕わあぁぁっ!!
そりゃ秋亜人の家に今晩も泊まれたら最高だけど、
秋亜人あっけにとられてるじゃないかあぁぁっ!!
頼む、秋亜人分かってくれ…!!

「…おま…怒ってねえの…?」

怒ってない、怒ってない、これっぽっちも怒ってない!!!
…頭振ったら少し落ち着いたぞ。
よし、気を取り直して…!

「その、うまく言えないけど、潜りっこもUFOやウルトラマンの話も楽しかったんだ。
 もちろん、秋亜人のお宅にご迷惑じゃなかったらだけど…
 姉さんの期末、まだあと2日あるし…
 ダメ、かな…?」

ダメかな、でも断らないで、本当に足手まといじゃないなら…
…僕は秋亜人と一緒に居たい…!

「ダメな訳ないじゃんか!
 そんな心配そうな顔するなって!
 あ、でも、熱が下がって元気になったら、だかんな!
 母ちゃんに言うとウルサイから内緒にしとこうぜ!
 そうそう、まだ宇宙人の写真がある雑誌、見せてなかったよな!
 すっげえんだぜえ!小さくてさ…」

うん、うん、良かった、いつもの秋亜人だ。
良かった…!
…でももうチャイム鳴ったよ。
口挟む暇無いな…
…って保健の先生来たよ、秋亜人。
肩叩いてるよ。

「大人の半分位なんだぜ!
 なのに目はデカくて」

「日高、もう予鈴鳴ったぞ。聞こえなかったのか?」

秋亜人の驚いた顔ったら…!
口が勝手に笑っちゃうじゃないか。

「ほら、早く教室に戻った戻った」

なんでかな、秋亜人のふくれっ面を見ていると、胸の奥から笑いがこみあげてくる。

「凱、約束だかんな!
 絶対、ずえったい熱下げろよ!
 授業終わったら迎えに来るかんな!」

手を振る秋亜人に笑って振り返す。
熱、絶対下げてやろうじゃないか。
何としてでも。

秋亜人は最後に一回ニッと僕に笑いかけ、廊下へと走り出して行く。

「こら日高、廊下走るんじゃ無い!
 …ったくアイツは困った奴だな…。
 でも黒木、イイ友人持ったじゃないか」

「いいえ先生。
 秋亜人は最高の親友ですよ」
…我ながら驚きだ。
先生に口答えしちゃったよ。

「はは、そうかそうか。
 さ、少し休め。
 でないと放課後アイツが呼びに来ても、
 保健室から出さんからな?」

笑いかけられ、僕も笑顔でうなずく。
カーテンが閉められる。

…ああ、なんだか身体が暖かいな…。
さっきまでの寒さが嘘のようだ…。
…そうだ、拳法の道場も明日は絶対行こう…
強くなって、秋亜人とずっと一緒に居られるように…
…ううん、もっと…秋亜人を…守れる…位に…
…秋亜人…



穏やかで暖かい感覚に包まれて、僕は眠りにつく。










(2008年3月27日の日記から)