〜食事当番〜

      (天空界逃亡5人組・三人称)
         *オマケあり*




「はぁ〜ちかれた〜!

そう言い出すのは大抵、シュラトだ。
この日もそれは例外ではなかった。

「なに言ってるんだ!
 今は一刻を争うんだぞ!
 少しでも前に進まないと…!」

「いや、そろそろ日が傾いてきた。
 日が完全に落ちる前に安全なところを見つけないと、
 それこそ身動きが取れなくなる」

熱血コンビも相変わらずだ。
しかし、さすがに精鋭部隊。意見がまとまった後の行動は早い。
この日は、30分程の捜索で、程良い洞窟を見つけ出した。
とはいえ、やはり洞窟は洞窟。
下は岩でゴツゴツしているから寝床を整えなければ寝られたものではないし、
入口周辺にまで伸びている枯れかかった草をなんとかしなければ焚火もできない。
一晩中火を絶やさず、危険な獣や昆虫を遠ざけるには薪も必要だ。
それに勿論、食料と水。

「そうだな…。ラクシュ、寝床を整えてくれるか?
 リョウマ、焚火をできるようにしといてくれ」

このときは通常、ヒュウガが指揮を取る。
ラクシュになるべく負担の軽い役割を振り
(今回、寝床の材料となる枯れ草は洞窟周辺に豊富にある)、
なおかつラクシュを守る者を付ける位のデリカシーはヒュウガにも(基本的には)ある。
そのため、ヒュウガが中心となって、自然と役割が決まるようになっていた。

「それじゃ、わたしは神将がどんな配置に付いているか、空から偵察してくるわ。
 …この洞窟、入口は分かりづらいけど、上から攻撃されてふさがれたら逆にアウトよ」
レイガの言葉に全員が頷く。

「よし、決まったな。
 今日はオレが食料を探してくる。
 シュラトは薪集めを頼んだぞ」

ヒュウガの言葉にシュラトが

「え〜オレまた薪集めかよ…」

とぼやくが、軽く黙殺される。
天空界に来てまだ日が浅く、食べられない果実を見分けることも出来ないシュラトに、
食料集めを任せるわけにはいかないのだ。

「それでは、日が沈みきる前に皆、ここに戻って来てくれよ」

とのリョウマの言葉を合図に、3人は洞窟をあとにした。
ぶつぶつとぼやき続けるシュラトも含めて。


「よいしょっと…薪にする枯れ枝、こんなもんでイイだろ。
 …にしても腹減ったなぁ…。
 この間の、レイガが取って来たくだものを軽く火であぶったの、うまかったよな〜!
 あぶらが乗ってて、カツオの刺身みたいでさ。
 皆、気をつかってオレにくれるし、あの晩は最高だったぜ☆
 オレってイイ仲間に恵まれたよな〜!」

本当は、魚の死体を生で食した時の味に似ていると聞いて、
生粋の天空人である残りの面々は食欲を失ってしまっただけの話なのだが、
究極の楽天家であるシュラトにはそんなことも思い至らないらしい。
即興で作ったアレまた喰いたいソングを口ずさみつつ帰り道を辿ったシュラトは、
洞窟に着くなり

「あ〜っめっちゃ腹減った!
 ヒュウガの旦那、何取って来てくれた?」

と、枯れ草に火を付けていたリョウマに尋ねる。
しかし、返って来た答えは残酷なものだった。

「早かったな、シュラト。
 ヒュウガはまだだ」

「うえ〜っ、マジかよぉ…。
 もう待てねぇ、腹減って死んじまうよ…」

へなへなとへたりこんだシュラトに、

「こらこら、レイガもまだなんだぞ?
 少しはそっちも心配したらどうなの、君は!」

とラクシュが茶茶を入れる。

「…レイガぁ?
 あいつは殺したって死ぬワケねぇじゃん! 大体あいつはさぁ…」

シュラトがレイガ批判を始めたその途端、

「あ〜らシュラト君、私に何か思うところでもあるのかしら?
 ひょっとして愛の告白とか?
 でもごめんなさいねぇ、野蛮な乱暴者は趣味じゃないのよ☆」

と明るい声がかかる。

「なんだよ、オレだってなぁ!オレだってなぁ!」

声を荒げるシュラトをレイガは軽くいなし、

「ヒュウガ先生はまだなの?
 …どこかで寄り道してる…なぁんて無いわよね…。
 リョウマ、私ちょっと探してくるわね」

と次に取るべき行動を決める。

「いや、オレが行こう。
 ちょうど火も起こし終わったとこだ…し…?」

リョウマの反論が、途中で疑問系に変わる。

異臭が鼻を突いたのだ。

「ひゃんひゃの、ひょのにひょい」

「やだ、くっさ〜い!」

レイガとラクシュも顔をしかめる。
レイガにいたっては、鼻をつまんでいる有様だ。
シュラトも手で顔の前をあおいでいる。

「マ、マジでくせぇ…。
 なんだぁ、この2週間履き続けた靴下に腐った玉子を和えたみたいな臭いは!?
 一体どこから臭ってんだ?」

「お〜い!」

シュラトが問うのとほぼ同時に、ヒュウガが木立ちから姿を現わす。
その途端、異臭がいっそう強まる。

「見てくれ、大収穫だぞ!
 栄養価も高いし、元気になるぞ〜!
 いっぱい取ってきたからな、じゃんじゃん食べてくれ!」

そう満面の笑顔を浮かべ、見ろとばかりに両腕いっぱいに抱えた果実を差し出す。
そこにあったのは、四方八方に突起がある、固そうな殻をした大きな果実…
…そう、人間界でいうドリアンに、そっくりだった。
色も、形も…そして臭いも。

「…あの〜、ヒュウガ先生?ちょっと聞いてイイかしら?
 臭いがキツすぎて食べられない人もいるかもな〜とか、
 洞窟だから臭いがこもるな〜とか、
 取る前に思ったりしなかったの…かな?」

「いや、この臭いがダメって人がいること位、承知している。
 だが、今は非常事態だ。好き嫌いをうんぬんしている余裕はない。
 それにこの先の道のりを考えても、栄養補給が最優先だろう。
 違うかレイガ!?」

「…そうだな、ヒュウガの言うとおりだ。
 しかも、この臭いが我々に移れば、
 臭いで我々の跡を追うという手段もかくらんすることができる。
 さすがだな、ヒュウガ!!」

あくまでも正論をつらぬくヒュウガに、まんまとリョウマが乗せられてしまっては、
もはや残る3人に反論の余地はない。
臭いで跡を追う能力を持つ奴なんていたっけか!?なんて問うても無駄だ。
我々だって全神将の能力を把握しきれてるワケではないとか、
インドラならあり得るとか、
ゼロに等しい可能性をまくしたてられるのがオチだ。
唯一の自衛策は…速やかに衝撃から立ち直り、逃げ道を探すこと。
今回は、ラクシュが早かった。

「そうだ、それ味濃いからお水が必要よね☆
 あたし、汲んでくる!」

「ラクシュちゃん一人じゃ危ないわ!
 私がついてったげる!
 空から近場の泉の場所、しっかり確認しといたしね♪」

間髪入れぬレイガの大声に、シュラトのオレが一緒に行くとの主張はかき消された。

「そっか、悪いなラクシュ、レイガ。
 ドリアン取るのに夢中になって、水汲んでくるのすっかり忘れてたよ。
 じゃ、頼んだぞ」

「オ、オレも行くってば!!」

シュラトが再び自己アピールを試みるが、自業自得という言葉もこの世にはあるワケで。

「シュラト、お前あんなに腹減ったって騒いでたじゃないか。
 オレ達と先にいただいていよう」

リョウマがシュラトの肩をその大きな手でがっしりと掴む。

「結構待たせちゃったもんなぁ。
 悪かったな、シュラト。
 おい、先に食べてて構わないな?」

洞窟から出ようとするラクシュとレイガに、ヒュウガが律義に確認を取る。

「はぁい、構いませぇん☆」

「シュラトすごくお腹減ってるみたいだし、
 なんなら全部食べちゃってもイイわよ♪
 あたしたち、ちょっとおしゃべりもしたいし!」

シュラトにだけ見えるように、こっそり両手を合わせるラクシュの背中を押しつつ、
レイガがニッコリと笑顔を作る。

「そうか、あまり遅くならんようにな。
 シュラト、いっぱい食べろよ」

「ほら、シュラト。
 殻、割ってやったぞ」

リョウマが中身の露出したドリアンを差し出す。
臭いに慣れてきたはずの鼻でさえ、くっきりと分かるほど臭いが濃さを増す。

「いやいやいや、取ってきてくれたヒュウガの旦那からどうぞっ!!」

「なに遠慮してんだ、疲れたってボヤいてたじゃないか。
 いっぱい喰って元気出せ!」

ヒュウガが慈愛に満ちた笑みでシュラトを眺める。

「ほら、シュラト」

「さあ、シュラト」


「ひょえ〜!!!!」

味覚や嗅覚の限界にも、負けるなシュラト!
個性の強すぎる仲間にも、めげるなシュラト!!
ボキャブラリーの少な過ぎる親友を取り戻すその日まで、戦え我らが修羅王シュラト!!!







(2008年5月13日の日記から)




「もしドリアンを採って来たのがリョウマだったら」

(2008年5月16日の日記から)