不用意な一言



これはレイガが仲間になって、数日後のお話。


その日も朝起きて軽い食事を取ってから、何時間も歩き詰めの強行軍だった。
ヒュウガはリョウマを後ろに従え、振り返りもせずに進んで行く。
ラクシュは2人に少し遅れながらも、皆に迷惑をかけるまいと文句も言わず付いて行く。
勿論、レイガはラクシュの歩みに合わせ、気軽な会話でラクシュの気分を盛り上げながら
つらそうなところではさり気なく手を貸してやっている。

そうなると、一番先に音を上げるのは…そう、仏頂面でしんがりを歩くシュラトだ。

「もう歩けねー。ハラ減った〜。
 なあ、休憩にしようぜ〜。なぁってばぁ」
そう言って地面にへたり込む。

「ちょっとシュラトくん。あんた、ハラ減ったー、
 休憩しよーって言いっぱなしじゃないの。
 まったく、これだからお子様はねぇ」
とのレイガの茶々に、

「そうよそうよ、だらしないぞぉー、シュラトぉ。
 皆頑張ってるんだからぁ」とラクシュも声を揃える。

そして、わざわざ戻ってきたヒュウガはあからさまに眉をひそめ、
険しい顔で口を開く。
お説教の始まりだ。

「何考えてるんだ、シュラト!
 今は一刻も早く天空殿に着かなければならないことは、お前だって分かっているだろう。
 このままだと草木は枯れ、アムリタは干上がり、天空界は滅びてしまうんだぞ!
 それなのに何だ、ワガママばかり言って!
 大体だな、朝だって人一倍食べていただろう!
 そんなたるんだ心で、ヴィシュヌ様をお救いできると思っているのか!」

「まぁまぁ、確かにシュラトは朝、
 果物を人の2倍、
 いや3倍は食べたが…。
 慣れない天空界なんだ。
 シュラトも気を張っていて
 疲れたんだろう」
ヒュウガをなだめに入るのは、
当然リョウマだ。

しかし、いったん火が点いてしまった
ヒュウガの正義感は、
そう簡単には鎮火しない。
「だから、そんなゆーちょーなことを
 言ってる場合ではない、
 って言ってるんだ!
 シュラト、お前は気合が
 足りないんだ、気合が!!」

「うっせー!
 気合でハラが膨れっかよ」
シュラトは頬を膨らませると、ぷいっと横を向く。

「あっちゃー、また始まった…。
 どうしよう、ねぇ、ミイ」
「ぷぶっくるぷー」
ラクシュとミーはその横で困惑顔だ。

「心頭滅却すれば火もまた涼し、
 だぞシュラト!
 お前は修行が足りん!!」
とのヒュウガの追い討ちに、
リョウマまで頷きだす。


「…そうだな、確かにシュラトは修行が足りんな。
 立派な神将というものはだな…」


シュラトが2人がかりのお説教に耐えられたのは、ほんのしばらくの間だった。


「だー!もう、うるせーっ!!
 果物なんかで力が出るわきゃねーだろ!!
 肉だよ肉!! 
 デカイ肉のかたまりにかぶりつきたいんだよっ!!」



その叫び声を受けて、
「いやねぇ、人間界上がりは。野蛮だったらありゃしない」
とレイガが軽口で応える。
しかし、その姿はラクシュの隣にはなく、
少し離れた木立の間から出てくるところだった。
それも珍しく上衣を脱いでいる。

「え…あれぇ、レイガ、いつの間にぃ?
 どこ行ってたのぉ?」
ラクシュの疑問に鮮やかな微笑みを返すと、
うまく端を結んで風呂敷代わりにした
上衣を掲げて見せた。

「どうせお子ちゃまの説得に時間がかかるだろうと思って、
 折角だから果物を採りに行ってたのよ」

木漏れ日を受けて微笑むレイガは、
上衣を脱いでいるせいか、皆の目にとても華奢に映った。
柔らかな日の光が、化粧を施したレイガの顔を
より一層女性的に見せる。
それとは対照的に、上衣の包みは非常に重そうだった。

シュラトは、不意を衝かれて
一瞬ボケッとレイガを眺めていた。
けれど、包みの重量感に気付くと慌てて立ち上がる。


   ガイも細いと思ってたけど、レイガもかなり細いよな。
   オレのために果物とってきてくれたのに、
   あんな細っこいヤツに重いモノ持たせてたら男の名折れだ。
   …ガイなら、ずっと傍に居てチカラ強いのも良く知ってっから、
   こんな心配しないけど、さ。


シュラトは小走りでレイガの元に駆け寄り、
包みを両手で受け取った。
「サンキュ、レイガ」

シュラトの素直な反応に照れたのか、
レイガがいつも通りに軽口を叩く。
「あーらシュラトちゃん、もう歩けねぇーとか言ってたのに、
 食べ物のためなら走れるんじゃない。
 さ・す・が 本能で生きてるだけあるわねー」

「んだよ、ムカつくヤツだなー!
 お前の腕にゃ重いんじゃないかと人が心配してやったってのによー」

「…私の、うで?」

レイガは怪訝な声を出し、
自分が片手で掲げていた包みを両腕で抱えているシュラトをいぶかしげに見る。
いかにも、「何言ってるのこの子は」と言いたげだ。

シュラトはそんなレイガの眼差しには気付かぬのか、
「だーかーらー、お前の腕はこんなに…」と言いながらレイガの腕を無造作に掴む。
レイガは自分の腕の感触を確かめるように触ってくるシュラトの手にくすぐったさをこらえながら、
次の言葉を待った。

ヒュウガは先ほどの場所に立ったまま、ぶつぶつと文句をこぼしている。
リョウマはそんなヒュウガをなだめ、
ラクシュはそのわきでレイガとシュラトのやり取りを微笑みながら見守っている。
どこにでもある、なごやかな光景。
それが、シュラトの次の一言によって切り裂かれた。









「なんだ、お前ってば意外と肉ついてんじゃん!!
 心配して損した、もっと細いのかと思ってたぜー!」



空気が瞬時にして張り詰めた。
ヒュウガとリョウマは言葉を途中で
もぎ取られたかのように話を止め、
遠くからおそるおそるレイガの顔色をうかがう。
ラクシュは「あちゃー」と小さくつぶやくと、ため息をついた。

レイガは…目を見開いたまま固まっていた。
顔からは血の気が引き、
くちびるだけがわなわなと震えている。

シュラトはそんな皆の様子に気付かず、さらに言いつのる。

「考えてみりゃー、お前ってばオレを抱えて飛べるんだもんな。
 そんだけ腕力あるってことは、
 見た目より肉が詰まってて当然だよな。
 ハハハ、ガイが居たら 『だからお前はバカなんだ』
 ってツッコまれてるところだぜー♪」

「空気読めよ、だからお前はバカなんだよっ!」

というヒュウガ、リョウマ、ラクシュ、ミーの
心のツッコミはシュラトに届かなかったらしい。

一方、レイガは…ようやく顔に血の気が戻り、…というか怒りで顔を真っ赤にし、
額に血管を幾筋も浮かび上がらせていた。
そして、無意味に開閉を繰り返していたその口から、遂に言葉が溢れ出た。









「な、な、な、何だとー!!
 オレがデブだって言いたいのか、てめー!!
 美意識ってモンが欠如してんじゃねーか
 こんの野蛮人があああああ!!」







その怒鳴り声は低く迫力に満ちて大空に響き渡り、
いつもならレイガを慕って寄って来る小鳥たちまで大慌てで逃げ出していた。
…そうだ、迦楼羅王のヴェーダは猛禽だったんだ…。
そんなことを残りの4人+1匹に思い知らせるには、まさしく十分であった…。






その翌日の昼。
最初に休憩を取ろうと言い出したのは、珍しいことにヒュウガだった。

「そろそろ昼メシにしよう。な、レイガ」

「そうだ、レイガの好きそうな木の実がなってるな。取ってこよう」
リョウマが慌てて走り出す。

「ねぇレイガぁ。昨日の朝から何も食べてないじゃない。
 今は空気中のアムリタもヴィシュヌ様石化のせいで減ってるし、
 何か口にしないと倒れちゃうよぉ。
 一緒に食べよう?」
そう、ラクシュも気遣いを見せる。

「レイガ、オレが悪かったからさ、いい加減食おうぜ?
 大体だな、別に太ってるって言ったわけじゃなくて、
 単に見た目より肉があるって…」
昨日あれから皆にこってり絞られたらしく、シュラトも説得に必死だ。

そんなシュラトをレイガはキツイ目付きで睨む。
「…それって結局太ってるって言ってんじゃないの!
 この美しい私がデブですって
 デブですって!?

 ご飯なんかいらないわっ、キ------------!」






結局、レイガが果物を口にしたのはその数日後、
偵察のために実行した迦楼羅霊視羽で山盛りの果物から
どうしても目が離せなくなった自分に
「…こんな私、浅ましくて醜くて許せないわっ」
と怒りで唇を噛み切った後のことだった、らしい。






(2006.09.09)

レイガの女性的な魅力と男性的な魅力のダブルパンチにシュラトもドッキドキ☆な
萌え萌えラブラブレイシュラSSを書くつもりが、ナゼかこんなことになっちまいました。
私の人生、常に想定の範囲外。